豪雨には苦い思い出があります。

珍しく、古い友人から携帯メールが来た。

 

「浸水大丈夫?」

 

ゲリラ豪雨的な天候急変や冠水した道路をSNSか何かで見て心配してくれたのだろう。

確かに、横須賀は大雨。

 

「撮影に出て流されるなよー!」

 

いつだったか私が横須賀を訪れた台風に単独インタビューを試みた動画のことを覚えていて、心配してくれたようだ。

 

ちなみにその動画はこちら


 

 

そして、またメールがきた。

 

「ブログ楽しみにしてます」

 

どうやら、心配はしていないようだ。また、豪雨の中を撮影に出るのじゃないかと期待しているみたいだ。

 

最後にもう一通。

 

「死ぬなよ!」

 

いや、やっぱり少しは心配してくれているみたいだ。

 

自然の驚異

台風とか雷といった自然の脅威は、恐ろしい反面、憧れにも近い畏怖の念を禁じ得ない。もちろん、それによって被害を受ける方がいるし不謹慎だという意見も分かる。それでもやはり、人間という生き物の小ささや、自然と対峙した時のか弱さや逆に強さが具象化する瞬間でもあるので興味がある。

 

取り繕った衣服や傘、看板は風と雨粒にぐしゃぐしゃにされ、平常時のルールや規則が役立たなくなる。人が道として舗装した道路をこしらえても自然が水を流すと、そこはあっという間に川となり、歩行が困難になる。

 

ところで、豪雨には苦い思い出があります。

 

昔、店舗を経営していた頃の話。やはり大雨が地域を襲いました。お店の建物は古く、シンクの繋がった上下水道とは別に、壁際の地面に縦穴が一つ空いていました。それはお風呂の浴槽の栓くらいの大きさの穴でした。

その穴は壁の向こう、崖伝いに流れてくる雨水を排水する為の穴のようでした。確かに、壁の下方をひっぺがしてみると、雨の強い日には岩清水のような水がその穴めがけて流れていきました。

ある人にその話をすると、それは・・

 

『自然散水システムだな』

 

といいます。

な、なんですか?自然散水システムって?

 

『簡単に説明するとだな、この坂道周辺ではわりとみられた古い排水システムで、ようするに排水管を縦に地面にぶっさして、地中に水を逃がす方法よ』

 

地中に水を逃がす・・わざわざ排水管を地面へ刺して・・

なんとも良く分からない話でしたが、説明を図にするとこんなイメージでした。

 

 

壁際から伝わった水が排水管を通って「じわ〜」っと地面に吸収されていく方式。

自然散水システム・・

システムもなにもないじゃん。ただ一カ所に集まった壁際の水が店舗に入って来て、それが筒を通って地面に戻るだけじゃん。

システムもなにもあったもんじゃないよ。

 

そして、実際豪雨のときはその優秀で高度なシステムがあっという間に破綻するのでした。

つまり、ゲリラ豪雨のように一時に大量の雨が降ると、地面が雨水を吸収しきれず土中の水位(?)のようなものが上昇します。

すると、その自然散水システムの筒を逆流して筒から湧き水が出ます。

おおラッキー、そうそう天然水、天然水。湧き水、湧き水うれしいなー、温めれば温泉にも・・

 

使えません!

 

そんなことではありません。

 

 

逆流して溢れ出した水は店内の床を伝ってどんどこどんどこ・・

水没です。

このままだとお店に水が溜まって水槽のようになるでしょうね。路面店だから淡水魚でも放流して小さな水族館でも始めましょうか。水量が少ないときは足湯BARとして営業してもいいかも、水だけど。

まぁ、そんな悠長なことはいってられませんで、友人に借りた土木現場用のドリルやなんかで男二人で壁に穴を掘りまして、新たな水路を作ったんです。

自然散水システムには別れを告げて、店の外の本管という下水管に雨水が流れるように小さなトンネルを堀りました。

いや、その時に一緒にお店を作ってくれていた先輩には感謝で頭が上がりません。

何時間かかけてコンクリ壁を削り、壁の向こうに小さな光りの穴が見えた時の気持といったら・・

それはもう黒部ダムの職人さんと同じ気分でしたよ。

 

開通。

 

 

その後幾度かの手直しをしつつ、水路は完成し豪雨にも耐えられるようになったのです。

現在はお店は辞めて別のことをしているとはいえ、こんなゲリラ豪雨の日にはそのことが今でも脳裏をかすめます。

 

確かに自然には逆らえないけれども、なんとか工夫して我々は生きておりますし、これからもそうして行く予定です。

あなたが、その尋常ではない風でポールをへし折り、信号を止め、鬼の様な雨粒で公園を水没させ、植木をなぎ倒し、人の営みを水路へと何度投げ込もうと、我々はなんとかして生きてまいります。

我々は詰まらぬことで時々大きな喧嘩を起こしますが、一方であなたからみたら小麦の粒のように些細なたった一つの事柄で一致団結することもあるのであります。

 

ダイバーがもしかしたら死んでしまうかもしれないと毎回思案しながらも、それでもやはり、あなたの隠した神秘を探るために毎回ボンベを背負い潜って行くように、やはり地上でも、あなたが見せつける脅威と人間の営みの儚さを目の当たりにしようとカメラを担いで風雨に打たれる人がいるのであります。

 

さて、ところが今日は一番激しく雨の降っていた時間には、たまたま電車内におりあなたに直接取材できなかったことを少し残念に思っています。一方で洗濯物が増えないし風邪を引く心配もなくなったので安堵もしています。

 

ただ、風雨ブログを楽しみにしていた古い友人だけにはあなたの方からよろしく伝えて下さい。

 

では、またいつか。

 

 

*台風、ゲリラ豪雨その他自然災害にはくれぐれも用心し、身の安全を確保するよう充分にご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

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