不規則ポッチ

その町の曲がり角ひとつ

 

その道が好きなら、そこを歩いて道を守る

 

その店が好きなら、そこへ顔を出して

 

そのお酒が好きなら、そのお酒を飲みねぇ

 

その席が好きなら、そこへ腰掛けて

 

という風に、住人というのはそれぞれの道の灯台守を毎日している

 

だから、通い慣れた道が突然通行止めになっていたり、

砂利道がアスファルトになっていたり、

逆にアスファルトが剥がされて土が見えていたり、

夕方まであったはずの公衆電話が翌朝なくなっていたり、

伸びていた道端の草が刈り取られていたりすると、

 

とても寂しい

 

あったはずの小石ひとつがあの場所にない

 

いつもの場所にタクシーが一台もいない

 

君のバス停やゴミ捨て場は撤去されました

 

雨脚を予測しようと覗き上げた場所のアンテナが役目を終えました

 

歩道を燕のフンから守る板は取り外されました

 

名もなき人がたった二段上がるために拵えた岸壁への階段も

 

駐車場と市役所の間から眺める海への小窓も

 

住人はその町を気に入って、毎日灯台守をします

 

玄関にぶら下げておいた他人には糸くずに見える何かも

彼らが見ることによって存在しています

 

車止めの石へいちべつを毎日くれて

 

コンクリートの染みを毎日踏んで下さい

 

決して入ることのない対向車線にある店の灯りを毎日眺め

 

それによって、

それによって、

 

遠くにはいかないように

 

突然すべてを刈り取るような伐採が起こらないように

 

それでもなければ、思い出さないくらい跡形も無く徹底的に消して下さい

 

それでなきゃ、

 

明日の朝をどうやって通り越したらよいのか

 

あの場所がいつまでもありますように

 

それぞれ

 

全ての住人の視線によって生かされる名前のない一角が

 

明日も同じに、ありますように

 

 

 

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