トムと塩加減

きゅうりの糠漬けを買う場所が三ヶ所あります。

二軒は八百屋さんで、もう一軒は何のお店なのかはっきりしないほど主力商品がボヤけた不思議ショップ。

どのお店でもきゅうりの糠漬けをもらう。一本では流石に悪いので、二本頼む。無い時は大根か人参を代わりに頼むけれど、本心ではそんなに欲しくはない。

 

きゅうりの糠漬けは、おじいさんの家を思い出す。

あの糠の田舎臭い香り、都会とは相性の悪そうな生命を強く感じる香。まだ少々糠のこびりついたきゅうりをビニール袋から取り出すと、何か別の生き物が飛び出したかのように一息にその世界があたりに拡散する。それは否応なく周囲へと流れる。

 

この章でやめておこうと思ったのに読み続けてしまう本があります。

 

出掛ける用事と残された時間などを計算すれば、ここできりが良いはずなのにもう一章先へ進むことを止められない。しかも、読まないことには先が気になって仕方のないサスペンスの類ではなく、随筆だったりする。

すっ、と気持ちよく終わった章の次ページに次のタイトルがある。まだ前章の読後感が落ち着いていないのに、気持ちは先を求め始める。

 

 

ミッション・インポッシブルの最新作「フォールアウト」を劇場で観た。

 

 

イーサン・ハントという特殊諜報員の活躍を描いた大作アクション映画。

主人公はトム・クルーズが演じていて、スタントマンは使わずに全て自分で演じたという前情報もある。

もちろん映画なのでありえないシーンがこれでもかと登場するのだけれど、観終わって気が付いたことがある。

それは、不可能な任務を遂行する特殊諜報員のイーサン・ハントよりも実在のトム・クルーズという人間、すでに五十を過ぎた生身のオジさんの方がありえない存在なのではないかということ。*五十六才だそうです・・

 

劇場で観るというスペクタル感を差し引いても、逆走する車の中をバイクで走り抜けるシーンにはびっくりすることだろうと思う。隣で観ていた人は叫び声を上げたほどだった。

重たくなってきた体を必死に揺すって走る場面や、年齢からくるのか、むくんだ顔も良い。ただ現状のままこの映画を五年十年と続けると、撮影中に大事故が起きないか、そういう終わり方しか出来なくなってしまわないか心配だ。

 

一説にはトム・クルーズが危険な撮影の虜になっているという話しもある。

参考:町山智浩 『ミッション:インポッシブル フォールアウト』を語る

町山智浩 『ミッション:インポッシブル フォールアウト』を語る

 

 

劇中にトムが自ら操縦するヘリコプターの中で「No,No」と言うシーンが何回かあるのですが、観ているこちら側からしたら「いやいや、トムさんあなたのほうがNO,NOそりゃないぜ」をされていますよ。あなた生身ですから。

 

ジョナス・メカスの映画ばかりを見ているわけではないんです。

 

そういえば映画日記の中でメカスさんが「今、私に足りないのはアクションだ。アクション映画がたりない」とつぶやく日があったと思い出した。

今回のトムを劇場で観ればしばらくアクションはいらないだろうから、次は落ち着いてのんびりとした映画でも鑑賞しよう。

 

チャップリン映画の脇役がとてもひっそりと素晴らしいように、ミッション・インポッシブル「フォールアウト」の脇役、というか顔も映らない端役のドライバーたちにも盛大な拍手を贈らずにはいられない。数センチ間違えば主役を轢き殺しかねないギリギリの運転技術は、何もカーチェイス好きのアメリカ人でなくても惚れ惚れとするほどなのだから。

 

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