たまには来たらいいよ

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風量1の静かな冷房。人通りの少ない部屋にいてパソコンのキーボードを叩いている午後四時。先に行っておくと、これは8月26日のことだ。


もうしばらくすると友人が遊びに来る予定で、ポップコーンとポテトチップス、ゼリー、それに夕飯用の野菜と炭酸とオレンジジュースを買ってある。友人は車に娘を乗せてくるだろう。四歳くらいだろうか。今日は夕方に花火があり、近所の海岸でそれを見物しようというのだ。彼らがその前か後で夕飯を一緒に食べるのではないかと考え、(我々の関係というのは、そういう細かいことを約束しないで人の家に行き来することがある)一応鍋に出汁を引いてあるし、野菜も肉も幸運なことに頂き物の鮪もある。あとは友人と娘を待つだけだ。彼女が暇を持て余したら、お絵かき用に画用紙とパステルと絵の具があるし、亀田の煎餅とゼリーと餡子もある。友人はコーヒーが好きなので、豆を切らしていないか後でチェックしなければだけれど今更なかったとしてももう手遅れだ。近所に豆屋さんはない。


昨日、普段はあまり訪れることのないスーパーマーケットへ寄った。平日の午後で人影もまばらだった。水の大きなボトルや小さいエビアンなどが常温で並んでいる棚の前に立っていた。しばらくして、妙に耳が気にする音を拾うことに気がついた。水の種類を眺めながらなんだろうと聴いていると、まるで上質なドローンミュージックのように、継続した音が幾重にも混ざりファ〜ンという雰囲気でかすかに響き続けていた。あまりに良い音なので、レコーダーを携帯してこなかったことを嘆きながらしばらく耳を傾けた。どうやらその音は水の棚の裏側にある冷蔵の棚から届いているらしい。多分キムチや豆腐やなにかを冷やしているコーナーではないか。もしかしたら玉子もあるかもしれない。


魚のコーナーを覗くと、柳蛸というぶつ切りのタコがあったのでそれを買った。この辺りの地ダコではないけれど、モーリタニア産よりマシだ。この辺りは地ダコが美味しい地域であるのに、自分で釣り上げない限りは、東京に行ってしまいほとんど街で買えないというのは悲しいことだ。


今日来る予定の友人は以前から花火観覧を約束していた訳ではなかった。たまたまその日の朝にメールがあり「今夜は花火だから来ませんか?」と誘ってみたのだった。
まだ暑さが酷い。娘を遊びに連れ出した友人は炎天下でくたくたになって到着するだろうか。部屋を冷やして待っている。あまり打ち上げにギリギリだとそのまま出発することになって、彼らも大変だろう。もしそうなったらポテチと亀田の煎餅を一人二枚ずつ持って出かけよう。海の淵で並んで夏の空を見上げる。たまたま朝、メールがあったのだから。

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