静かな夏の夜の喫茶店で

話の内容とは関係のない白い飲み物(自家製)

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早めの夕食を済ませ喫茶店へ。食後のコーヒーを飲みに出かける。ここ数日は東京にいたこともあり外でコーヒーを飲むのは久しぶりだ。からんころんとは言わないけれど、そんな雰囲気の木戸を引いて中へ入る。その日は祝日の最終日で、どうやら連日忙しかったらしい名残が所々に漂っている。カウンターの端へ通される。逆の端にはまだ片付けていない背丈のあるグラスや使い終えた皿が置いてある。薄い灯りにくしゃっとなった紙ナプキン。まだ明るい夏の夜。

ホットコーヒーをお願いし、注文するつもりもない食事の黒板メニューを眺める。豚、鶏、斜線で消された何か、デザート。所々かすれた手書きの文字。白い粉。

店内には他に食事をしている二人組と一人でお茶を楽しんでいる若者。その若者がお会計を済ませ出ていくと、入れ替えに別の男が入ってくる。知人N君だったので隣の席へ案内され少し話す。本来は古道具屋さんなのだけれど、片付けのバイトもしている。店の奥からFさんもやってきたのでしばし三人で古道具屋談義をする。N君は古紙や金属をためて買い取ってもらっていること、先日催事出展した東京のデーパートで結構売れたこと。他の人のディスプレイも全部担当したことなどを話した。
Fさんは近所で最近閉店した古書店の話。片付けに来ている人に投げ売りで十冊百円で売れば片付けも捗るだろうと伝えるか考えている。

N君はiPhoneで請求書を作るにはどうしたらいいか聞く。昔はHTMLでサイトを作ったりもしていたらしいのに、今のN君はPDFの使い方どころかwi-fiが何かも分かってないし、ちょっと変。話が中々通じない。別の席で食事をしていた二人が微笑している。
「意外とレトロ人間なんだね」というと、店主が「違うよ、野人だよ」と笑いながら突っ込みを入れる。パンダの姿をした陶器の置物が棚の上で黙っている。

話が少し長引いたので追加で豆乳ゼリーの黒蜜がけを注文する。経年で細かな傷が無数に刻まれたアルミの皿に、背の低いガラスの器がのっている。円柱型に少し濁った白色の豆乳ゼリー。最上部に湖面の薄氷のように黒蜜が広がり、天井から吊るされたアンティークランプからの鈍い光をぬめっと反射している。窓の向こうの細い路地を米兵が談笑しながら歩き去る。

食事を終えた二人組が、おじさんたちの機器にうとく、昭和で時代遅れな話に半ば呆れたような笑顔でお会計を済ませ店を出て行った。N君が豆乳ゼリーを覗き込んで「それ、美味しそうだね」といった。

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