最近観たことを覚えている映画
ちょっとだけ映画尽いている。
『穀物と魚』
そう名付けたい映画を観た。
正式邦題は英語の題名を直訳した『クスクス粒の秘密』という。
原題はフランス語で『La graine et le mulet』(粒とボラの意)監督はアブデラティフ・ケシシュ Abdellatif Kechiche。フランスのチュニジア系移民の二世。
内容は移民の初老男性が仕事にあぶれ、一念発起してクスクスレストランを開業。周りを巻き込みバタバタと進む。
しかし、一番最初に思ったことは・・
可愛い家に住んでいるな。
ということでした。
主人公は六十代。決して裕福ではなく、船の解体屋で働く老体。
彼は離婚していて、今は再婚相手の経営する寂れた安宿に間借りしつつ暮らしている。
その部屋は二階だか三階にあって、狭いキッチンとリビングが一緒になっている。窓辺に小さな木のテーブルが置いてある。窓からは通りの向こうにある小ぶりな港がみえる。
特別美しい港ではなく、これといって珍しい出来事も起こらない海辺の片田舎といった風情。周囲の建物もお洒落ではないし素敵なボートが停泊しているわけでもない。
彼の部屋からはこの小さな港が見える。
海から通りを一本挟んだ立地にある安宿。小さなキッチン。ぶら下げられた鳥籠や洗濯物、布。窓枠に切り取られた狭い海辺の景色。
なんか、とっても普通。
『眺めのいい部屋』とかそういうのではなく。
人物のクローズアップが多用され、喋り続ける長回し。日々のいざこざ。
役者の肌も普通でいい。カメラ用に丁寧に手入れをしているとは思えないその辺にある肌。奥には銀歯が見えているし、食べたり話したりするシーンでは口の中が丸見えで、所々歯のない人もいる。
なんだかんだと、最後まで見続けた。
それで、観終わってお腹が空いたので「クスクスが食べたい」と冗談半分に言ってみると本当に用意してくれた。
数日調子が良くなかったのも手伝って、それは柔らかくて胃腸に優しく、とても美味しかった。
他にもロマン・ポランスキーの『テス』とルキノ・ヴィスコンティの退屈な映画を少し、パゾリーニの『奇跡の丘』を観た。
パゾリーニは良かった。マタイ伝に出てくるイエスの言葉以外多くを語らないモノクロの画面と、時折思い出したように流れる時代の異なる現代的な歌声。言葉の省略。そういったものを憶えていられる映画だった。
ロマン・ポランスキーの『テス』は、今となってはありきたりな不幸と男女のお話で作られる。しかし、カメラワークが上手く、道もいい。背景の建物や扉、木々といったものに丁寧な心使いを感じる。そういうものを見ているだけでも観る価値はあるし、画面飽きがしない。
霧と泥の素晴らしいシーン。
内容とストーリは問題ではないと感じられるほどの画面がそこにある。
じゃあ『お話』はなんの為にあるのか?
ポランスキーはストーリーを無しに、背景とカメラワークの映像を作ったら最高なのではと思う。意味を抜きにして夢を夢のまま再生する映画。
人間はときとして誤ったものを発明もするけれど、正しいものも生み出す。映画はその数少ない後者にあたる。
映画を観たいという気持ちがある。