.
瞼を閉じたまま夜更けの雨を聴く。窓は閉めてあったっけ。少し開けたままのところもあるな。そのままうつらうつらと寝苦しい夜を過ごして朝を迎えた。
目覚めると晴れていた。太陽で温まりつつある地面から湿気が立ち上がり蒸し暑い。軽めの朝食を済ませた後で相方が髪の毛を切ってくれるという。ちょうどレイモンド・カーヴァーのヘアーカットという短い散文のような詩を読んだばかり。
物置から使っていないレジャーシートを引っ張り出して床に敷く。昔ながらの虹色のシート。相当使っていないので少しベタッとする。裸んぼうになり合皮のグレーの丸椅子に座る。相方は「足がベタベタするから」とシートに乗らないで鋏を動かし始める。
一通り切り終えた後で「最後に調整する」と言って所々を五センチくらいジョッキっと切るので不安になる。終えて洗面所へ行き鏡を見る。鏡の中の左側の自分はビジュアル系のように片側が長く伸びた前髪、右側には十円ハゲのような剃り込み部分がある。
腹を立ててぶつぶつ文句を言いながら鋏を受け取り、前髪と一箇所だけいたずらされた猫みたいに刈り上がった側頭部に手を入れる。裸のまま、隕石が落ちた窪みのように円形に短くなった部分に合わせて他を切っていく。少しずつ刈り上げ部分が広がっていく。「あー、あー、あー、どーすんだよこれー」と言いながら鋏を進める。相方は文句を言われるのが嫌だったみたいで別の部屋に引きこもってしまった。
昼食は相方が仕込んでくれたバイマックル入りのタイカレー。それと昨日醤油と味醂、酒でさっと煮た北海道ツブ貝の出汁が美味しかったので、取っておいたその出汁に茄子を揚げ焼きして追加。煮浸しにした。キャベツをぶつ切りにしてクミンをほんの少しちらし、塩だけで味をつけた即席サラダも用意した。
ナスの揚げ焼きに使った取手の部分まで鉄でできたアメリカの重いスキレット。昔はやらなかったのに、最近は熱くなった取手を素手でそのまま握りそうになる。実際一回しっかり握ってしまい火傷したことがあるので、革で取手カバーを作る。久しぶりに足踏みミシンを動かしたら湿気が汚れにまとわりついてカビていた。
相方は台所の古染みの付いた壁を白ペンキで塗っている。迷い込んだ蜂を窓から逃し、庭の花を切る。
車で通るときによく眺めていた紫陽花を咲き誇らせた歩道へ散歩に出る。盛りを超えて枯れゆく紫陽花。思ったよりも広範囲に植えられていて角を曲がった住宅地にまで続いている。「誰が植えているのだろうねぇ、挿木かねぇ」などと話しながら一つ一つ見て歩く。褪色していく紫陽花の美しさに感嘆しながら夕暮れを歩く。裏道を抜け、ブルーベリー畑を覗いたりしながら家路へつく。途中で出稼ぎに来ている東南アジアのグループに遭遇し挨拶を交わす。夕方の風に揉まれた髪は切り立てより少しましになったように思う。
・
・
・