一夜にして

昨晩まで思ってもみなかったことを、翌日考えつく、ということが時たまある。
ずっと使うと決めていた言葉が、たまたま読んだ本や、みかけた文字、車窓の風景に影響され、全く別のものに置き換わる、ということもある。そしてそれは、新鮮なうちに使ってしまうか、誰かに話してしまわないと、腐るか忘れるかして消えてしまう、という可能性もおおいにある。

垣根に生えていたキノコ。白の傘によくみれば筋が幾重にも刻まれている。急に帰ってきた寒さに我を取り戻し、萌え出た一斉の白。一掬い、土ごと器に入れて屋内へ。机の上、素焼きのミニカップに入った白い、名も知らぬキノコたちを眺める。

午後、半分萎びた群れがある。
夕刻、全域に渡り萎びかける。
翌朝、別人となり頭を垂れる。

オレのせいか。

冷めたコーヒーの残りを手に持ち、窓辺に寄る。垣根のあたりを眺めると、地に生えていた他のキノコ群も全滅しかけている。私のせいだけではなかったようだ。

ふとスーパーのエノキ茸を思い出す。萎びずに袋につめられたキノコ。お前たちは繊細のかけらもない、図太いやつらだな。オレは腹が弱い。だから垣根の一晩限りの見知らぬ白いキノコを愛でる。

コップに入った土とともに、あまりにも細くなった彼らを放り投げる。酔って帰宅し、間違って最後のコーヒーが残ってたラッキーといって悲惨な目に遭いたくないからだ。と、思ったがもう一日だけ、そうして机においてみる。乾燥もやしのような姿になったキミたちと。

fine

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