相互関係

日記  10/24 2018

書いてから寝よう。何かしら。
別に気を利かせたことに心使わず、ハプニングもなしで。

 

打ち合わせが十件あった。

嘘だ。本当は二件、しかもその内の一件は相手には言ってない。
残る一件を済ませて、電気を消し扉を閉めて歩きに出た。

旧な坂道は曲がりくねっていて、排水用の穴のある壁が高くそびえている。
穴からは植物が生え、穂や枝葉が風に揺られ、壁面を打ち付けた跡が残っている。
植物が描いた壁画。何重にも擦った円。

 

前後するけれど、午前中の話。

 

袋を破いて蒔いた種が発芽したのだけれど、袋に書かれた名前の植物ではなく、何か別の見たことのない草が生えてきた。それは夏のことだった。
そして、今その得体の知れない草はほぼ枯れている。僅かに残ったひと握り、花らしきものがある。いや、既に種になりかけているのかもしれない。目立たない素朴な色で。

分からないものを分からないままにして。

 

ケーキが非常に美味しかった。

中身は紅玉という林檎。名前のはっきりした小振りな、濃い赤の。

 

久し振りに迷惑メールが到着し始めた。
それで、午前二時半に目が覚め、今は四時半。

観たい映画が二本ある。
・「顔たち、ところどころ」アニエス・ヴァルダ
・「まぼろしの市街戦」フィリップ・ド・ブロカ

 

鼻水が垂れて来た。寒くはない。
ティッシュを切らせているのでキッチンペーパーを突っ込んでいる。

聴いていないラジオの音で外界を確認するのと似て、車の往来が聴こえ始めたので安堵する。また、太陽が来たようだ。朝。

 

憂鬱はカラスの鳴き声に怯えて姿を消す。

紙で鼻が痛い。

 

Miscanthus sinensis   ススキ

・我々にとってトウモロコシよりも馴染みのある揺れる穂、ススキ。 アメリカでは侵略的外来種。

 

Solidago canadensis    セイタカアワダチソウ

・北アメリカ原産。日本では要注意外来生物。

 

Ambrosia artemisiifolia   ブタ草

・セイタカアワダチソウと間違われるも別種。アレルゲン、日本では要注意外来生物に指定。

 

 

逆の鼻がきた。寝返りを打つ。

 

 

 

 

 

 

鎖樋

靴下を急いで履いて

 

 

パソコンを取り出し、言葉を打つ。

両足に布切れ一枚巻きつけるだけでどうしてこうも暖かいのか。

一方で、つい数日前まで小さな木材一本を運んだだけで玉状の汗が吹き出ていた。あの季節はなんだったのか。

 

 

昨日、地下鉄に乗り。

 

永田町で乗り換えて、人の溢れる町へ。

空気のこもった構内から地上へ這い出ると、小雨であった。

異国からの買い物客を避けながら街路樹の影を踏む。

空気は適温で、むしろ顔を包む霧雨の粒が心地いい。

 

流行りの服が窓の向こうに陳列され、ガラスとそれぞれの主張に塗られた壁面が人を待っている。

 

配色を絞った外観に竹色の植物を這わせた建物のある信号を左折して、路地へ入る。

湾曲したガラス張りの路面店は借主を探している。

記憶の地図で通り過ぎた場所に目的の店はなく、一つ戻って直感のする角を曲がる。

都会らしい背の高い広い窓と、身長のある樹木。

目的のお店であるのか看板を確認していると、テラス席に一人腰掛けていた人物がこちらを振り返る。

 

「どうぞ」

 

 

歯切れのある印象の店名が書かれたガラス戸を押し、中へ。

 

天井の高さと人の気持ちの余裕は比例する。

 

 

窓に沿って配置された気分の良さそうな席には先客。

本を並べた棚越しに二、三段の階段を下りる。

一人で座るには勿体無い四人掛けのテーブル席を案内される。

 

コンクリートの壁と長椅子の間はやや狭いけれど、腰や背中が楽なように小ぶりなクッションが置いてある。

生地がびろびろと折れ曲がった材質の絵が二枚あり、片方には横板を張った白と灰色の家が描かれている。扉は薄い緑。端の方で画布から剥がれた色素がより一層雰囲気を盛り上げている。右下のサインは混乱し判読できない。

 

コーヒーを待っている間に一通り店内を見渡し、窓の外へ視線を投げる。

 

調度品はどれも程よく時間経過した古物や嫌味のない仕立ての什器で見飽きないのだけれど、それらを額縁とするようにして高く広く天井まで続いたガラス窓の外、滴る雨と配置された木々は何時間でも眺めていたい一枚の絵にも見える。

 

決して食べ物の邪魔をしない程度に微香する数種のサボンやポプリ。静かなギターの音色に友人たちの顔を思い出す。

 

飲み干したコーヒーカップをそのままに本棚を見ようと席を立つ。

 

先客が退店したこともあって、手の空いた店主が背後から声を掛けてくれる。

新刊も古書もある中で、今のオススメはこちらですと指添えた坂本千明氏装画の猫のイラストが表紙の本は、先日下北沢の書店で既に買い求めた一冊だった。

 

 

同じ本を気に入っているという安心感は他人との距離を一息に縮める。

 

 

生まれの共通する民族ですら誤解や齟齬を招く「言葉」という非常に不便で扱いにくい手段を手にしてしまった生き物が、その中でも懸命に伝えようと選択した本という言葉の形態。

 

数百万の濡れ方のある、雨。

 

 

二階の集水器から下りてくるのだろうか、細長い鎖状の金具を伝って雨水がちろちろと鈍く輝いている。

 

しっとりと優しく落ち着いた質感の声をそのまま形にしたような、雨に似合う美しい路地裏の店を出るとき、主人は赤い折りたたみの雨傘を持たせてくれた。

 

雫の強くなってきた雲にその紅花を広げ、今日の空模様を感謝した。