人が走るのと同じで

忙しくなってくると

 

髭は伸び

文字は縮まる

 

それではいけないと

何かを始める30分前に

 

あえて、pcの前に座ってみる

 

 

それでは昨夜のことを書き始めよう。

 

 

誰の為でもなく、

出会った素敵な人たちをいつの日か懐かしく思い起こす微香として。

 

昨晩、モンゴル人と日本人とで夕食をとりました。

 

彼は元遊牧民の家庭で育った30代の青年。実家には馬、ヤギ、羊、鶏など数百頭の家畜がいた。

遊牧、それは家畜を草のある場所へと移動しながら生活する生き方。

彼も小学生の頃まではそうやって暮らしていた。

 

私は日本への造詣の深くない人がするような「渋谷に芸者は住んでいるか」といった滑稽な質問になることを恐れながらも、モンゴルと聞いて、馬のことを尋ねずにはいられなかった。

 

馬には乗りますか?

「昔は乗りました。小学生の時には弟と一緒にレースにも出ていました。」

小学生で?

「はい、レースに出場するのに年齢や資格はいりません。ただ馬に上手に乗れて、お父さんが出て良いと言えば出場できますから」

 

どんなレースなんですか?

 

「7月に草原を何十kmか皆で競争します。300頭くらいの馬が一斉に走ります。

私は弟と鞍の無い馬で走りました。」

 

何故鞍が無い馬に乗るのですか?

 

「馬が楽に走るんです。人間の場合と同じです。人が鞄を持って早くは走れないように馬も鞍があると楽に走れません。だから上手な人は皆鞍を使いません。」

 

 

私は鞍の無い300頭の馬が草原を走っていく姿を想像して驚愕し、危うく椅子から落ちそうになった。かろうじて手綱がわりのビールグラスを掴むことで落馬を免れながら、目の前の超人と思われる人物と話しを続けた。

 

遊牧民は今でもパオというか、ゲルというあの遊牧民のテントで移動しますか?

「昔は馬や駱駝に解体したゲルを運ばせて移動しては組み立てていましたが、今はトラックらしいです。私の実家はもう遊牧をやめてしまったので最近はわかりません。」

 

ご実家の遊牧はやめてしまったのですね。

 

「はい、2009~2010年の寒波で多数の家畜が死んでしまったので、今はウランバートルに住みます。お父さんは遊牧する時に次の草がある場所を探して先に行き、戻って来てから家畜の一団を率いて牧草地を移動していましたが、今は町に住んでいます。弟は水道関係のエンジニアをしています。」

 

弟さん(隣に座っている)は今はお休みで日本へ?

 

「水道の外の仕事は冬は出来ません。土が凍ってしまいますから。なので、モンゴルでは冬の間数ヶ月がお休みになります。」

 

数ヶ月のお休みを利用して日本へ来たんですね、冬季のお休み期間もお給料は出ますか?日本はどうですか?

 

「ハイ。お給料は貰えます。今回は東京スカイツリーを見に行きました。曇りで町は望めませんでした。日本は暖かくて好きです。少し狭いですが。」

 

どの辺が狭いですか?

 

「車がすれ違う時、とても近い場所を走ります。バスに乗ると怖いです。向こうから来る車とバスがとても近くですれ違うので、私は怖いです。それから、、お肉が高い。」

 

お肉が高い?豚?牛?

 

「牛は高いです。モンゴルでは200円で1kgの牛肉が買えますから。」

 

味はどうですか?

 

「味は違うと思います。モンゴルの牛肉は血抜きしないから味は濃いです。それからミルクティーは塩を入れて飲みます。」

 

モンゴルは好きですか?

 

「もちろん。」

「私(兄)はいつか遊牧に戻りたい。年をとって定年したらそうしようと思う。でもお父さんたちは無理じゃないかと言います。専門の技術が必要ですから老後では難しいと」

 

遊牧生活のどこが好きですか。

 

「とっても美しい。特に夕方、日が沈む前に一日の仕事を終えるため一箇所に馬や羊を集めます。沢山の動物が集合して賑やかです。小さな子山羊は遊んでくれとお母さんに寄って行きます。

どこまでも続く草原の向こうに太陽もまたここでの日常を終えて姿を消し始める。

暮れ際には写真家がマジックタイムと呼ぶ、影と色彩の一幕が盛大に繰り広げられていく。

 

「地上に暮らすのも悪くないだろう?」

 

良く手入れされた馬の背中からは湯気が立ち、牝馬が体を震わせる。少年は狼から守るために犬を連れて羊を一箇所に集め、土埃の中でヤギと鶏が終業を騒ぐ。父親は夕食の香り立つゲルの面前で、満足気に一部始終を確認していく。その目には丘をいくつか越えた先に生えているであろう草原が写り、風が、深い目尻の皺を撫でる。

 

馬の夢を見た少年が異国の寝台でその風に目を覚まし、布団の中で星を探す。

 

 

 

*内容は主観と一部個人の印象によります。

モンゴルの景色が見たい方は写真が綺麗なこちらのブログ「悶々モンゴル」をネットで見つけましたから、覗いて見てはいかがでしょうか。

http://dahomn.hatenablog.com/

 

 

 

 

 

 

暗号の下書き

編集しなければいけない映像について考えていると

 

なぜか文字が欲しくなった。

 

そこで部屋に散乱している適当な本を手に取り、指の成り行き任せにページを開いた。

 

「フィルモアの頭は黄金に関する観念で埋まっていた」という行から始めて、「一軍隊が四六日と三七時間働いてもフランス銀行の地下に沈んでいる黄金全部を勘定するにはまだ足りないんだ」と進めた。

 

そして「これこそドイツ最良の書と呼んだ書物である。それにはこう書かれていた。」

「人はますます利口になり、抜け目がなくなるであろう。だが、よくはならず、幸福にもならず、行動においてもたくましくはならない━━ 少なくともいくつかの時代にわたって。」

 

というところまで読んで書を閉じた。

そしてまた別の一冊を漁り、三好達治という人が詩を書いていたことを「本をつんだ小舟−宮本輝」の中に見つけ、彼の翻訳した「惡の華」という本が我が家にあったはずだと書架へ戻った。

 

 

淡くかなしきもののふる

紫陽花いろのもののふる道

母よ 私は知つてゐる

この道は遠く遠くはてしない道

 

 

結局「悪の華」はどこかへ雲隠れしていて見当たらなかったので座り慣れた椅子に腰を落ち着けて三好達治をもう一度繰り返した。

 

文字というのは厄介で扱い辛く、「バカ、お前は」という文字もその前後の文脈によっては愛情を持って発せられた言葉である場合があるし、それと反して単純に貶しただけのこともある。

 

さらに厄介なことにこの文字という記号の羅列は、そこに表象された国語を理解するだけでは全てを知ることは出来なくて、その記号の裏側や行間に挟み込まれた文字なき発言を読み取らなければならないこともある。

つまり、それぞれの国で教えられた言語以外に、この暗号と言っても良い発信者からの信号を受信するためには人生の苦汁を嘗める必要があったり、血流が変わるような激情や恐怖や喜び悲しみを知らなければならない。

 

つまり、ほとんど解読不可能に思われる暗号の山が図書館や書店には並んでいる。

 

それは動作として単純に一ページ開いただけでは見つからない宝や毒の泉で、そこには冒険者を待つ山間の静けさがある。そしてある一定の採掘者への足がかりを随所に内包しながら何世紀にも渡って存在し続けている。

 

突然話は変わりますけど、水深五メートルまで潜れる小さなカメラを持っていました。

過去形にしたのは先日海に入れたら何処かから漏水して壊れてしまったからです。

少なくとも四年くらい使い続けた愛機。

しかしながらどうしても直ぐに使う予定が入っていたので、盛大な葬儀も行わず次の一機を探しに出かけました。

紆余曲折があった末に、我が冒険の同伴者としてふさわしいと思われる相棒を見つけました。

 

『Gopro Hero5』

 

どんな人間ひとりにさえ映画や小説より面白い人生の断片、垣間見た奇跡的な瞬間の欠片がある。普段の忙しい生活の中ですっかり忘れてしまっているこれらの一コマを本や映画というのは、同意によって思い起こさせてくれるという点でどれも芸術的で素晴らしく、人間に満ちている。

 

そう思う。

 

ただただそう思う。

 

エアコンの室外機や冷蔵庫の唸り声に何かの曲を思い出したり、歩道と車道をなか違う鎖を跨ごうとして引っかかり、盛大にすっ転んだ目の前の他人の出来事が体内の映像倉庫に溜まっていく。

または、催し物の帰り道で小さな子供が不用意に手を離してしまった風船が空を登って行く姿、ゴミ収集車が片方の手袋だけを落としたまま走り去ってしまった街角、気分を悪くして降りた駅で誰かのかけてくれた優しい言葉というそれぞれの断片が。

 

映画や小説が、タンスから出てきたアルバムの写真が、太古の洞窟壁画が人間の過ぎてしまったひとときを思い出させる。

それぞれの方法で記憶されたイメージを時間や個体を跨いで共有する。

 

だから私たちは見知らぬ他人の古い映像や一文に鳥肌を立てるのではないだろうか。

 

 

そうやって、今度は十メートル潜れる「Gopro」というカメラや少し高額な古本を購入したことを納得させて今日も生きています。

 

*絵と本文はほとんど関係ありません。

イラスト:「巨大な空飛ぶ蛸に連れて行かれる買い物帰りのエコ・バッグを持った二人」

 

引用

1:「北回帰線」H.Miller 新潮文庫

2:「本をつんだ小舟」宮本輝 文藝春秋 (三好達治の詩)

マクレーン

忘れない名前

例えば

ルーク

例えば

アナキン

例えば

ジャバザハット

 

そして、

 

マクレーン警部

 

 

本日、朝風呂直前

裸足でワイングラス割れ、飛散す。

 

 

寒い、

危ない、

 

この危機的状況を救ったのは

ジョン・マクレーン警部補その人だった

 

「おぃ、おぃなんでオレが硝子の上を歩かなきゃいけねぇんだぁ」

「冗談じゃねぇいぞぅ。本気かぁ〜」

という声が自然と出ます。

 

アンラッキーが襲った時は

 

ダイ・ハード

 

いいですか、不運には『ダイ・ハード』

マクレーン警部補をオススメします。

 

 

見知らぬ親戚のように、突然襲って来た辛さがどこか適当な距離へ離れるまで

マクレーンは側に居てくれます。

 

ただ思いついた罵詈雑言や弱音を、あの声で繰り返すだけでいい

もちろん吹き替え版で

 

乾かない水彩画のように、悲しみに悲しみを上塗りしてはなりません。

 

グレーを持って生まれてきた生き物は

日々に色彩を求めます

 

取り急ぎ、キッチンペーパーを巻いてセロテープでとめています。

 

そんなふうにして、いつの日か

ドク、ドク、ドク、が

皮膚を打たなくなります。

 

 

フォースはマクレーンとともに