象の鼻はなんであんなに長いのか、憧れで長くなったんじゃないか、いや、面倒くさがりで椅子から立ち上がりたくないけどペンを取りたい、というような気持ちで伸びていったんじゃないか、ということを平日の午後の喫茶店で話していた。
出先からの帰りで、カバンには薄い布袋に包んだ玄米製のルバーブケーキが入っている。それと、古書店で購入した金井美恵子さんの文庫本が一冊。カメラ。メモ帳。ペン。
家族を病院へ送る途中の車窓で気になる張り紙を目にした。一瞬だったのでほとんど何も見えずに通り過ぎた。シャッターの外側に貼られているということに不吉な予感が走った。
家族を病院へ送った後で、Uターンをしてその場所に一人で戻る。ウィンカーをたいて窓へ顔を近づけてみたがどうも読めない。文字が小さ過ぎる。車を降り、歩道へ上がってシャッターに貼り付けられた紙を読む。パウチできちんと止められたそれは予感の通りだった。
若い頃から時折出かけていた古書店の閉店を告げる紙だった。店主さんが亡くなったことをきっかけに閉店を決めたと書かれていた。その古書店は木製の細い書架と、通路に古本が乱雑に積み上げられた部分があった。また一方でぐるりと店を一周回る通路には、壁沿いに書籍が理路整然と並んだ棚もあった。静かで激しい稀有な店だった。
車に戻り更地の角を曲がって病院の方へ戻った。入院していた家族を引き取りにきたのだが、「たった今、会計を終えた」ともう一人の家族からメッセージが来た。正面に車を回してくれというので、車止めの正面に乗り付け、少し待つと電話が鳴った。「どこにいるのか?」という催促の電話だった。正面にいる、と答えると、それは多分一般病棟で、こっちは入院病棟にいるとのことだった。サイドブレーキを下ろして発進し、入院病棟へ車を移動した。正面の入り口に家族が二人ペンギンみたいに立っていた。数メートル前に停まっている小型車の中で、後部座席の人物がおもむろに運転席を窮屈に跨いだかと思うと、そのままストンと落ちるように座った。小型車が出発した後で車を出し家路へついた。
.
.