ダンボールを一枚敷いて
正座に近い格好をして
座って待つオヤジさんがいた。
頬は少し赤い
ダンボールの前には質素な器が一つ
小銭は入っていない
雨に濡れない場所を選んで
正座に近い格好をして
座って待つオヤジさん
長くすると
腰を浮かせる
月日は流れ、夏が来た
正座に近いオヤジさん
割と涼しい場所をみつけて
今日も座っていた
しかし、正座に近いオヤジさんが
以前までのオヤジさんだと思ったら間違いだ
正座に近いオヤジさんは彫刻刀を持ってきた
今日もやはり、少し顔を赤くして
大地と自身との接点に一枚のダンボールを挟み
座った
そして、取り出した彫刻刀で平板を削り始めた
平板にはシンプルでやや幼稚なニュアンスに仕上げた下絵
色鉛筆で一部を彩色して塗り分けてある
あまりの暑さに早仕舞いしたいくつかの店
喫茶店へ
路上の車から声をかけられる。
向くと、運転席にいつもの人。
開けた窓から何か話しかけているけれどうまく聞き取れない。
無人の助手席、その後ろ、黒いスモークがかかって中の見えない場所から命令があったのか慌てて車を移動させるいつもの人。
暗闇からダースベーダー。
お茶。離れた席にバイリンガルの若い二人。
流暢な英語の合間に「Fukushi」「Kaigo」といった日本の単語が挟まる。
バラの生垣に椿一輪。
チョコレートケイキ。一生懸命クリーム。底の分厚いバカラのグラス。縦線と光の世界。
昨日帽子が落ちていた広場。
改装中という怪獣が次々と売り場を飲み込んでいくデパ地下。
魚屋さんと八百屋さんが同時に飲み込まれ、次に生ジュース屋さん、そしてあくる日には自然食品店が。
夏の間にビル全体がこのナマコ怪獣によって輪廻を果たすか。胴体には「関係者以外立ち入り禁止」「休業中連絡先」の張り紙。
ヨーグルト98円。
星空。
無用アンテナにぶら下がったケーブル、
夜風で鉄足に触れ、風鈴の音色。
朝のこと
ほぼ同時に発せられる、神輿を担いだ祭りの掛け声。しかし、一人の声が必ず耳にはっきりと届く。その人物の声の周りにその他大勢の合わさった声がある。
グレーの中に一点混じった黄色。
ひとが生きる窓の灯り
そして、天使がオジサンだった場合
それでも人々は天国へ入場するのかどうか