始まり

 

 コーヒーポットからピンクベージュのカップへ朝の一杯を注ぐ。ソーサーが少しずれていてカップがカタカタカタと小刻みに揺れる。注ぎ終わると静かになり晴れていた空が曇っている。

 年の離れた友人が映像に興味のある若手を紹介するからというので喫茶店で待ち合わせをした。早めに到着すると、すでに友人は着席していて隣に居合わせた人と話をしていた。その間へ座ることになり、上着を脱ぐと居合わせた人は「行かなくちゃ」と帰り支度を始めた。

 しばらくして紹介すると言われていた”映像に興味のある若手”が到着。挨拶を交わしたのちにお茶を飲みながら店主を交えて話が弾む。店主はとんでもなく映画に詳しく、アテネ・フランセに通っていた時期があるそうだ。他にお客さんもいなかったので映画とか映像の話をしながら二杯目はお酒を頼んだ。年の離れた友人は「飲んだことのない知らない銘柄がいい」と口を開き、朝日やキリンではない瓶ビールを注文する。

 小一時間を過ごし、店を後にした。友人は朝が早いのでこれで帰宅すると呟き、分れ道で別の方角へ姿を消した。今日知り合ったばかりの二人で少し歩き、別の店へ向かった。

 その日はライブがあると聞いていた飲み屋街の一軒へ入ると音楽はすでに終わっていて、カウンターで数人が飲んでいた。そこへ隙間を見つけて二人で座り今度は音楽や海や移住について語り、香川で自給自足しているユーチューバーのことなどを聞いた。天ぷら油で車を動かしているらしい。彼自身は横須賀にガスなし薪風呂付きの空き家を見つけ引っ越そうか考えているという。

 この辺りの海で気に入っているという海岸へお互いが通っていることが分かり、今度一緒に行こうという話になった。電車の時刻が近付いたので会計を済ませ夜の道に出た。明日は休みなので撮影に行こうと思うと言い残して彼は右へ、ネオンの輝く方角へ歩いて行った。忘年会シーズンで、電車は賑やかだった。今日は帰らないと決め込んだ若いグループが次の駅で楽しそうに降りていった。扉が閉まり、変わらぬ車窓からの夜景が左へと流れていった。

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